真っ白の霧の中にいる。
雲の中に入るとはどんな感じだろう。小さい頃、アニメ「アルプスの少女ハイジ」総集編のビデオを見ながら、何度も考えた。おぼろ気な記憶だが、高い山の丘を滑るようにモコモコの雲が駆け抜けていき、ハイジを包んで通り過ぎていったような気がする。私はその雲の存在を信じた。雲に触って包まれてみたい、その時目の前にはどんなすごい光景が現れるのだろう。その答えは霧であった。
以前訪れた、よく霧に包まれる小さなひんやりとした町が、頭をよぎる。
飛行機越しに雲に包まれた私の体は上昇し、霧のような雲を突き抜け、青い空と真っ白な水平線へ辿り着いた。雲の中にいる間はつまらないが、そこまで行くと清々しい。小さな四角い窓からでなく、体ごとその景色の中に温泉に入るように身を沈めたら、もっともっと良い気分だろうなと思う。 初めて飛行機に乗ったのは修学旅行だったことを思い出す。インスタントカメラを持って、雲の上の写真を撮った。美しくて何枚も何枚も撮り、いざ現像するとどれも似たような写真で薄暗く、美しさも清々しさも映らなかった。それでもその写真は今も手元に残っている。
そして音がすごい。最近はもう音楽再生専用の機械を持ちあるいていないので、聞き慣れた音楽で誤魔化すこともできない。サブスクのオフライン再生の準備も、搭乗までになんとかしようとして間に合わなかった。家を出る瞬間も家を出てからも、いつもこんな調子で迎え続けている。
再び雲の中を揺れている。居心地のわるい揺れだ。頭の中に恐ろしい考えが浮かぶ予感がするかしないか、その瞬間にその思考を止めにかかる。深夜バスに揺られている気分になってみたり、本を読んでみたり、可愛い画像をみたり、自分の守護霊は強いから(知らないけど願望です)と強気にでたり、このように文章を書いてみたり。
飛行機の旅は未だ自分にとっては特別なもので慣れない。雲でできた白い水平線がただ美しいだけのものでないと感じる。離陸の時もどきどきする。
ハイジのような雲はどこにあるのだろう。
やがて飛行機は高度を下げて目的地につくだろう。恐ろしい考えになど支配されなかったかのように振る舞い、雲の中で揺れたことを茶化すに決まっている。