top of page
ushisansan21

冬の川を飛び続ける

更新日:2023年5月18日

武庫川ほどは大きくもない、そこらの用水路ほどは小さくもない川で、水に沈む飛び石のようなものに足を置いた。その石を蹴るようにして飛んで、次の石へ移った。その日は冬で、足を踏み外して川に落ちる心配をギリギリしてしまうような距離にその石はあった。石はいくつも川に埋まっていた。空は雲がないようないい天気だったと思う。

踏んで蹴って飛んで、いくつかの石を飛び移る。 だけど、ただ単に飛び移ることができない。川落ちたら濡れるじゃん、とか。あっ飛んだ、着地した、着地した瞬間いつか昔にどこかで飛んで着地した時の事を思い出す。あれ?それはどこだっけ?

そこから着地とも川とも冬とも関係ないことまで連鎖のように、次々と浮かぶ記憶を渡り歩いていく。その中でしか再び出会えない記憶がある。そしてすぐに次の石へジャンプする。それでもうその記憶とは次にいつ出会えるかわからない。

体は今、今日この場所の川の上の石に着地したけど、例えば意識は昔にジャンプしたある日の庭に着地したあの時の記憶だし、それと同時にまた未来から今ここの川を思い出す感覚があった。

これを何度も繰り返すうちに、この川への同行者の記憶が薄れていくようだった。実際、今、その冬の日に、誰とどういった理由で川へ行ったかはっきりと思い出せない。だけど、いつかどこかで着地した拍子に思い出すのかもしれない。

こうやって溜まっていく記憶は飛び飛びに連鎖して、何度も行き交って、私はずっとその中にいたい。あ、石も投げた。水の上を跳ねた。

最新記事

すべて表示

宗谷岬(北海道)/海を見た日

ここには実際に行っていない。スープカレー屋さんで飾るのだから北海道の絵にしようと思い描いた。北海道は一度行ったことがあるけれど、海の写真も記憶も残っていなかった。湖なら写真があったのだが、今回は海なので、北海道最北端・宗谷岬を描いた。漫画ハチミツとクローバーで、竹本君が自転...

海が続く道(沖縄)/海を見た日

ここは沖縄で、みんなでどこかを目指して歩いていた。途中アイスを買って、でもあまりにも暑すぎるからみるみるうちに溶けてしまい、手元が大変なことになった気もするし、なかなか上手に食べ切れたような気もする。真っ白な灯台のようなものも見た。とにかく歩いても歩いても、まさに南の島の海...

灰色の夕暮れ(千葉)/海を見た日

夏のドライブの最終地点に中の島大橋があった。中の島大橋は遠目で見ると少し変わった形の橋だなと思ったけれど、実際に渡ってみるとかなり変わった橋な気がした。緩やかな弓形に見えた形は、歩けば足の裏で弓形のカーブを感じれるように丸かったように思う。一本の道路が山登りになっているよう...

bottom of page