その日はいつものように会社へぼんやりと向かっていた。よくあることだが、本当にその日は億劫だった。会社も近づいてきて、嫌だなあと空を見上げると、太陽とは別の小さな光があった。それはヘリや飛行機とは思えないような速さと、複雑で滑らかな軌道で空のごく一定部分を右往左往した。何秒かそれを見つめていると、光はピタリと止まり、消えた。
眼鏡のレンズに映る反射じゃないかと、自分で一度茶々を入れる。
だけどそんなレンズの反射は今まで見たことがない。UFOだこれは。
重く下がった瞼があがり、頭がはっきりとしてくる。誰に話そう?動画を撮るべきだった。そう思いながら、さっきとは打って変わって、しっかりした足取りで会社へ向かった。 このあと何度か、小咄をするような勢いで、嬉々としてこの話をした。この話をするのは不思議で楽しいからだった。ひとり、自分も見たことがあると教えてくれた友人がいた。「だよね、やっぱり、いるよね」と信じてるとも信じてないとも言えるようなトーンで話し、私達は満足した。